tugboat

タグボートって、知ってる?

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タグボート(英語: Tugboat)は、船舶や水上構造物を押したり引いたりするための船。
引船、曳船(ひきぶね・ひきふね、曳船はえいせんとも)、あるいは押船(おしぶね)と言う。青函連絡船では補助汽船と呼ばれた。
wikipediaより

小さい頃に見た缶コーヒーのCM。
ケータイがすこしずつ普及して、「着メロ」が流行り始めた頃だった。

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駅のホームで、上司と部下が電車を待ちながら話をしている。

部下:
それにしてもあれっすよね〜。着メロって流行ってますよね〜。
いい大人の癖してやってるやつとかいるじゃないですか?
僕から見たらもう最低っすよ、ああいうの〜。

すると、隣にいる上司のケータイから着メロが悲しげに流れる。

部下は自分のミスに気づき、震える手で、缶コーヒーを飲む。

上司:「君がいなくなると寂しいよ」

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僕はこのCMがとても好きだった。確か中学一年くらいの頃だったので、社会人の悲哀なんてわからないはずだったが、「君がいなくなると寂しいよ」の一言は今も鮮明に思いだせる。そうそう、BOSSで言えば、「俺はうのたんの味方だよ、たとえ世界を敵に回したってね」というやつも好きだった。

これらの広告は、TUGBOATというクリエイティブ・エージェンシーが作っていると知ったのは、もちろん自分が広告会社に入った後だった。

なっちゃんデビュー、アミノサプリのレンジャー、DAKARAの小便小僧、キムタクのFMV、FUJIFILMの「世界はひとつずつ変えることができる」、オダギリジョーのライフカード、カロリーメイトの「がんばれワカゾー」・・・・

僕だけでなく、きっと多くの人の頭の中に残っているだろうこれらの広告を、タグボートというたった4人のチームが作っていることを知ったときは驚愕した。「全部タグボートじゃないか」と。広告業界に関わりのある人くらいしか、TUGBOATという名前を知っている人はいないかもしれない。でも彼らの広告を知らない人は日本にほとんどいないだろうと思う。
その後も、DOCOMO2.0の合コンCMや、Mr.Childreの「365日」をテーマにしたCMや、桃太郎をハリウッド映画のような実写で表現したペプシのCMをつくっている。それらもきっと、誰もが思い出せるだろうと思う。

TUGBOAT 10yearsという本は、発売と同時に購入した。700ページくらいあって、重くて、そして高い。それでもこんなに中身が詰まっている本も珍しいだろう。変なクリエイティブの解説本よりも、よほど参考になるエッセンスが詰まっている。ぎっしりと。いろんな意味で重いのだ。

今もオフィスにあるこの「TUGBOAT10years」を読み返すたび、小便小僧たちやりとりに声を出して笑いながら、こころが沼の奥深くに沈んでいことになる。こんなやつらに勝てるわけないじゃないか。いったいどうやったらたった10年でこんなにたくさんの素晴らしい作品を作れるっていうんだよ、と。それくらいに、タグボートという存在は、広告クリエイティブの世界で圧倒的に強く、かっこよく、他者を近寄せない凄さがある。

ちょうど最近、タグボートの船長である岡康道さんの本「勝率2割の仕事論」が発売された。新書を買ったのは久しぶりだった。しかし読み始めたら休まずに、ひといきで読み切ってしまった。たくさんの事例を挟みながらも、文章は簡潔で読みやすい。そしてかっこいい広告をつくる岡さんの生き方はやはりかっこいいものだ。

内容は今まで他の本でも触れてきたことかもしれないが、とても読みやすくまとまっている。十代のころに親が借金を残して消えたこと。クオリティを追求した提案しかしないから、今でも勝率は2割であること。海外にチャレンジしたが、諦めて撤退したこと。「臆病」であることが、広告クリエイターに最も必要な素質であること。広告業界の現在のクリエイティブに対する意見もとても冷静で本質的なものばかりだ。

当たり前だけど、自分たちの世代は彼らとだって戦わなくてはいけない。なぜならこれからだって、タグボートは競合プレゼンに参加し、勝利し(勝率2割で)、広告賞をさらっていくのだから。そう考えると諦めて白旗をあげて退散したくもなる。

だけど、この本の中でちょっとだけ、岡さんも読みが甘いなと思うことがあった。「テレビはあと50年は力を持つ」というところだ。今の時代の進行の速さがわかっていないのだと思う。テレビはなくならないが、テレビの収益モデルはこの5年で変わるだろう。課金制に以降するタイミングは、遠からずやってくる。そうなれば、今ほどのCMは必要なくなるだろう。そういった社会の変化に合わせて、上のクリエイターが作れないものを、次の世代はつくりはじめていかなくてはいけない。

いつの時代も、きっと新しい世代が、新しい手法によって、世代交代を起こすものだ。

最後に岡さんの文章を引用します。

配属間もない頃、何人かの先輩と飲みにいった。日本経済は活気にあふれ、広告業界も今よりずっと元気だった。銀座の夜は大人の時間であり、そこで豊富な経験に基づく、貴重な話を聞くことができた。しかし残念ながら、ほとんどのオジさんの話は「自慢」か「愚痴」であったように思い出す。

今回の話しがどちらにもなっていないことを祈るばかりだ。どちらにも当てはまる、かもしれない。もしそう感じたら、遠慮することはない。僕を追い越していってほしい。

どのみち、広告制作会は世代交代を待っているのだ。しかし、君が現れない限り、僕は僕の道をゆく。

勝率2割の仕事論

若いやつらは、この挑戦に勝たなくてならない。
TUGBOATは、たった4人で、今日も日本という大きな船を運んでいる。
かっこいいんです、ほんとうに。


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牧野圭太 Keita Makino 1984年生まれ 。コピーライターが読書を通して考えたことを書いていきます。テーマはことばやデザインやその他もろもろ。
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