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フィルターをとりはらう

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「大学院をやめました。」

「人にやさしくするのをやめました。」

「わたしはわたしをやめたい!」


ある一人のうつ病女性による「やめていく日記」。

高校生の植野と今井はネット上でその日記を見つけ書き手が知り合いの女性、松下菜那なのではないかと疑い始めます。彼女との淡い恋と、憧れの女性が一人の女性として見えてくる切なさが描かれていきます。

「本当のことは悲しみに属すんだな」

この今井の言葉が、物語のキーになっていると私は思います。

今井の父親はリストラをうけ、うつ病を患い、それから妻と喧嘩をするたびに車を走らせどこかへ行ってしまうようになります。「父親」として見ていた父が崩れていくことに、今井はとてもショックを受けます。

それとリンクして、松下菜那が、恋人に愛されなくなった事に傷つき、我を失っていく様子も描かれます。「やめていく日記」を読んでいくにつれて、クールで憧れの的である彼女が、一人の男性を盲目的に愛す普通の女性だということが明らかになっていくのです。

このように、何かフィルターをかけて見てしまっている相手が一人の人間として見えてくるとき、一種の悲しみのようなものが押し寄せてきます。それが、「本当のことは悲しみに属する」という今井の言葉につながるのだと思います。

私は昔から父とあまり理解し合えない仲でした。軽蔑することや嫌悪することもありましたが、それは心のどこかで父を「父親という生き物」だと思っていたからかもしれません。しかし二十歳を過ぎ、父も普通の一人の人間だということに気づき始めました。「親」というレッテルを剥がしたことにより、父も人間なのだから「こういうところもあるのだ」と欠点を受け入れるようになり、関係性が変わってきたように思います。


物語終盤、今井は父親のありのままを受け入れていき、植野は、未熟で不器用ながらも、本当の菜那を受け入れ救い出します。

その後二人がどうなるかはわかりません。しかし植野は、人から愛されなくなることは、人間をここまで崩壊させるのだということを目の当たりにし、自分がふった元恋人に謝罪の手紙を送ります。

植野は、菜那との一連の出来事によって、一歩成長したのです。

恋人にしても親にしても、お互いをきちんと一人の人間として見れるようになって初めて、本当の人間関係を築いてくことができるのだと、改めて気づかせてくれる作品でした。


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「今日は本を読もう」編集部

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編集部です。鈴木(22歳女)と牧野(31歳男)が担当をしています。本にまつわるいろいろな企画を出していく予定です。
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